映画「からかい上手の高木さん」

長い長い前置き

智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、心の中にギャルが生れる。

多かれ少なかれ、住みにくさというのは誰しも抱えていることだろう。そんな時は、引用のように、心の中にギャルを飼えと文豪は言っている。嘘です、怒られそうなのでやめておこう。別に、LGBTQ+αな存在ではないが、ジェンダーの制約で人生の楽しみが削られるようなことがあっては勿体無いので、女性になってみたいと思ったりしないのではあるが、自らの対極に存在するであろうギャルのモノマネなどやってみては勉強になるのではないかとも思わない。ギャルは死んだ!

何を言っているのかさっぱりわからないので、この辺で止めておこう。小学校以来の友人と久々に会う機会を創出した。しかし、飲み会に行くだけでは捻りがないので、根暗集団向けの最適なプランは何か、数秒に渡る懸命な塾考の末、ちょっと匂う灰色の脳細胞から捻出されたのは、

  1. 恋愛映画を観る
  2. お洒落なカフェでパフェを食べる
  3. 靖国神社に参拝して、英霊の慰霊を行う

であった。堂々たる提案は即座に拒絶される、真面目な奴らだ。

物事がどう転んでも美味しく頂けるよう努めたいものである。拒絶されたプランを一人で実行してはどうだろう。苦行度の増加が期待され、より強烈なネタ創出の機会を得たとポジティブに捉えられるのではと友人に語ってみたところ、狂いましたかと一蹴された。

そんなこんなで恋愛映画を探す。2024/06現在、上映中の恋愛映画は何かと調べてみると、洋物が一つ、邦画はヒューマンドラマばかりである。唯一見つかったのが、漫画原作の実写映画「からかい上手の高木さん」であった。漫画の実写化と聞くと身構えるが、原作は読んだことはないにせよ、そこまで突飛なラブコメではないと想像できるので、地獄を見る可能性は低いだろう。他に地獄ポイントがあるとすれば客層だろう。お嬢集団の中浮いたおじ様になるなど期待したいところだが、女児向け作品でもなければそこまで偏ることもないだろう。といった塩梅で、ネタの強度に不安はあれど、他の選択肢もない。

結論、地獄をみることはなかったのでネタとしては弱いが、以下作品の拙い感想を述べる。ちなみに客層は幅広く、どちらかというと年齢層が高かった、日本社会の縮図か。

からかい上手の高木さん

あらかじめ申し上げておくが、この種の作品に関して私は全くの無知である。私は映画通ではない、まして恋愛映画に至っては観た記憶すらない。他の媒体においても恋愛を題材とする作品に触れたのは、古典文学の類しか思い当たらない。なので、穿った観察も何もなく、思い当たった事を徒然なるままに、日暮し...

さて、無知なりに導入っぽいこと書いてみよう。山本崇一朗氏の作品は全く読んだことがないが、各作品のヒロインを眺めるに、おでこフェチなのだろう。作品のおでこへの情熱を起点に、語ってみたいのだが、考えるまでもなく、私はおでこに執着していないので何も語れない。

ということで、本題に移る。10年程離れていた高木さんからの電話で物語は始まるわけだが、なんというか...会話に...苛立つ。その原因は、男優のわざとらしい狼狽でも、女優の自動音声読み上げのような平坦さでもなく、支配的な女性と冴えない男性の組み合わせにあるだろう、痴人の愛に通じるものを感じる。峰不二子は魅力的だが、ナオミは受けつけられない。そんな訳で、からかいの何たるかを察するとともに、これからの一時間強に耐え切れるのかという不安が芽生える。

しかし、その不安は杞憂であったようだ。流石プロというべきか、逃げ出したくなるほど、キツくなることもなく、緩やかな時間がひたすら過ぎていく。全てが非常に緩やかだ、あまりにも緩やかで飽きが生じる。すると次第に、「Free Solo」や「The Alpinist」といった刺激的なドキュメンタリー作品に思いを馳せ始める。脈絡のない思考にも見えるが、全くないという訳でもなく、作品の舞台となった小豆島はクライミングスポットとして知られている。要は、海と高低差のある見事な自然景観を成す島で、その映像は非常に美しく、観光PVとしての魅力はかなりあると思う。

恋愛映画のクライマックスは、告白シーンだろう。この作品では、長い独白を交互に行う告白バトルが始まる。せめてラップでもやってくれたらいいのだが、当然やらない。次第にだれて、結論から話せというエグセクティブな態度がもたげてくる訳だが、そこで素晴らしい気晴らしが登場してくれた、トイレ帰りのお婆様だ。若い男女が熱い思いの丈をぶつけ合っているスクリーンの前を、ヨタヨタと歩く姿を応援したのは私だけではないはずだ。

ということで、ネタバレもクソもないとは思うが、微妙に配慮しつつ、記憶にあることを書いてみた。上述の捻くれた感想はさておき、全体を通じて、音楽は記憶に残っていないが、映像は美しく、キツさを感じる機会も少ないあたり、結構洗練された一作なのではないかと予想する。予想というのは、恋愛映画を知らないからである。何はともあれ、小豆島には行ってみたくなった。

補記

映画鑑賞後、喫茶店を探しつつ、靖国神社に参拝した。なぜかどこも混んでいて探すのが面倒になったので、参拝をさっさと済ませて、最寄駅まで戻り、よくあるチェーン店で苺パフェを食べてみた訳だが、これといって面白いことは何もなかった。